酪農経営

平成15年度優秀畜産表彰
普及定着化推進事業
全国優良畜産経営管理技術発表会推薦調査書

庄司牧場 

 

1.経営管理技術と特色ある取組み


 昭和51年に搾乳牛21頭を飼養する庄司牧場に迎えられ就農した。古電柱を買い集め、40頭規模の畜舎を自己資金で建設したが、昭和58年4月牛舎の全焼と共に乳牛約50頭を失った。地域の人達に励まされ火事の翌日には再建が始まり、その年の7月には完成した。この時に北海道から導入した牛が、今日の牛群の基礎となっている。昭和58年は、多難な年であったが、牛群検定の立ち上げや基礎牛の確立など今日の経営基礎を築いた年でもあり、大きな転機となった。


 (1) 低コスト経営のために
 
  「投資しただけの金は得られない」と考え、特に糞尿処理施設については平成10年にスラリー散布時の臭気防止やコスト面を考えてスラリー浄化システムを導入した。このシステムは機械の更新が消耗品のポンプ程度で、メンテナンスが簡単で自費更新により対応している。
 また、平成16年11月に向け、堆肥舎は昨年までに大部分を自力施工で行った。柱には古電柱を使用し、廃棄になったガードレールで型枠を組みコンクリートで三方を囲い、堆肥舎は残生コンクリートを譲り受け完成させた。また、機械を収納する倉庫、事務所、実習生宿泊施設、訪問者用トイレ等の殆どが自力施工で行い、ここ数年は県内外の畜産農家が参考にしたいと訪れる。また、作業用機械の多くは中古品を購入し、保守管理をしっかり行うことで長く使用している。

 飼料は、大量にまとめ買いすることで単価を安く抑え、ビール粕もビール会社と直接契約して安く譲り受け利用している。
粗飼料の確保はコスト削減を考え、地域の酪農家3名で組織し、市と委託管理契約を結び、これに掛かる経費並びに収穫物は組合員に均等に配分している。
 敷料のオガクズは、安い業者を探し確保していたが、現在は古材のチップを購入しその品質は普通のオガクズと変わりない。


 (2) 牛づくりとその能力を引き出すために

 昭和58年より牛群検定を実施し個体能力の把握、パソコンでの管理など効率的な牛群改良に励んでいる。
 「今日の種付けは来年の搾乳のため、3年後の牛群のため」をモットーに自家産の雌子牛は全頭保留し、初産の成績の良い牛を残すようにしている。平成元年からこの方法で牛群の改良を行い、成績は確実に伸びており、8,000kg前後の乳量から現在は9,500kgとなっている。乳成分も乳脂率は4%台、無脂固形分率8.9%台を維持している。飼養管理面では省力化を考え平成2年に自動給餌機を導入し、平成12年にTMRを取り入れた。
 「牛にとって快適な環境を築くのが牛飼いの義務」と考え、飼養管理は私が、経営管理面を妻が主に担当し、平成8年から青色申告を実施し節税対策にも努めている。


 (3) ゆとりある酪農をめざして

 平成元年から平成14年まで県南乳用牛群改良組合長を務め、検定員の後継者育成と検定料の乳代控除を認めてもらうなど働きかけをしてきた。昭和53年より地区の酪農青年会(10名)による互助ヘルパーが確立し、休みがとれ、ゆとりのある酪農経営に努めた結果、平成4年8月には宮城中央酪農ヘルパー利用組合(23名)の結成に至り、組合長として現在に至っている。


 (4) 子供たちへの「農業・食」教育をめざして

 15年前に、たまたま牧場を訪れた消費者との会話の中で牛乳や野菜、農薬などに知識がなく、誤った認識があることに愕然とした。これを契機に正しい知識を消費者につなげる必要性を痛感し、わかりやすい「乳牛の一生」のパンフレットを自費で作成し、見学者や子どもたちへの説明に取り組み、平成13年にはいち早く教育ファームの認証を受けて、「農業・食」教育にも取り組んでいる。体験学習の内容もレパートリーを広げ、時にはヘルパーの助けを借りている。


 (5) 後継者の育成を目指して

  指導農業士として酪農後継者の育成に努め、実践大学校の研修生受入も酪農を志していることを条件とし、また、県内で開催される牛群検定の研修会等でも乳検データーの読み方、牛群改良の重要性など若い担い手を指導している。研修生受入のためログハウスの宿泊施設も整備し酪農後継者の育成に取り組んでいる。


2.経営の概要と実績

(1)労働力の構成

平成15年7月現在
区 分 続柄 年齢 農業従事日数 年   間
総労働時間
労賃単価 備  考
(作業分担等)
  うち畜産
部門
家 族 本人 51 320 320 2,432 1,000 酪農全般
49 320 320 2,432 1,000 酪農全般
71 60 0 300 1,000 稲作全般
70 60 0 300 1,000 稲作全般
常 雇              
臨時雇 のべ人日     家畜ふん尿処理
ヘルパーは月2回程度利用
ふん尿処理36人 36 1,000
ヘルパー25人/年 200  
労働力
合 計
2.3人 600 640日 5,100
時間
   

(2)収入等の状況

 平成14年1月〜平成14年12月
区 分 種 類
品目名
作付面積
飼養頭数
販売量 収 入
構成比
農業生産
部門収入
畜産 生乳 45.5頭 417,492kg 81.7%
個体販売(子牛・育成)   18頭 6.8%
個体販売(成牛)   4頭 3.1%
堆肥販売     0.1%
和牛子牛販売 4頭 4頭 2.9%
耕種 水稲 240a 80俵 3.0%
稲作作業受託金     2.4%
農 外
収 入
       
合 計         100%

(3)土地所有と利用状況

 
区 分 実 面 積 備 考
  うち借地 うち畜産
利用地面積





耕地 240a 200a 0a  
 
樹園地  
240a 200a 0a  
耕地以外 牧草地 730a 220a 730a  
野草地  
   
730a 220a 730a  
畜舎・運動場 1,873a 0a 1,873a  
その他 山林  
原野  
1,873a 0a 1,873a  
共同利用地
(市有草地)h
3,000a 3,000a 3,000a 利用戸数:3戸

(4)家畜の飼養状況

 単位:頭(羽)
品 種
区 分
ホルスタイン
成畜
ホルスタイン
育成・子畜
黒毛和種
成牛
黒毛和種
子畜
期 首 44 39 4 4
期 末 47 28 4 3
平 均 45.5 33.5 4 3.5
年 間 出 荷
頭(羽)数
4 18   4

(5)経営の推移

年 次 作目構成 頭(羽)数 経営および活動の推移
S51 畜産 搾乳牛21
育成牛4
結婚(婿入り)と同時に就農
  転作奨励金で増築、自家産牛で徐々に増頭
S58 搾乳牛40
育成牛20
 
S58 搾乳牛6
育成牛10
火事で牛舎が全焼
共済金、借入金にて畜舎を建設、機械を導入し再建する
生産調整で24頭まで頭数を減らす
S61 搾乳牛24 牛は100%自家産で増頭し生産調整前の水準に戻る。その後、素牛の導入はなし。
自動給餌機を導入し作業の省力化を図る
H2 経産牛45  
H12 育成牛30 TMRの給与開始
H13   酪農教育ファーム牧場として認証される

(6)自給飼料の生産と利用状況

 飼料作物の生産状況(平成14年1月〜平成14年12月)
使用
区分
飼料の
作付体系
地目 面 積(a) 所有
区分
総収量(t) 10a当たり
年間収量(t)
主な利用形態
(採草の場合)
実面積 のべ
面積
採草 オーチャドグラス

イタリアンライグラス
730a 2,190a 自己 180t 2.5t 1番草:ロール
2番草:ロール
3番草:ロール
採草 オーチャドグラス

イタリアンライグラス
3,000a 9,000a 共同 510 1.7 1番草:ロール
2番草:ロール
3,730a 11,190a 89-t

(7)経営実績

期 間 平成14年1月〜平成14年12月 経営実績 畜産協会指標
経営の
概況
労働力員数
(畜産)
家 族 2.3人  
雇 用 0.02人  
経産牛平均飼養頭数 45.5頭  
飼料生産用地延べ面積 7.3ha  
年間子牛・育成牛販売頭数 18頭  
年間肥育牛販売頭数 0頭  
生産性 牛乳生産 経産牛1頭当たり年間産乳量 9,500kg  
平均分娩間隔 13.6ヶ月 13ヶ月
受胎に要した種付回数 2.0回 1.8回
乳脂率 3.8% 3.8%
無脂乳固形分率 8.9% 8.7%
体細胞数 12.8万個/ml 15万個/ml
細菌数 4万個/ml 10万個/ml
粗飼料 経産牛1頭当たり飼料生産延べ面積 14a 25a
借入地依存率 45.4%  
飼料TDN自給率 25% 50%
乳飼比(育成・その他含む) 46.5% 35%
経産牛1頭当たり投下労働時間 90.5時間 110時間


3.家畜排せつ物の利活用と環境保全対策

(1)家畜排せつ物の処理方法

 固液分離処理の状況  一部分離処理


  [1] 固形分の処理(堆肥化処理等)

  牛ふんはバーンクリーナーで堆肥舎わきの固液分離機に運ばれる。分離の後、固形分は第1堆肥舎まで運ばれ、その後、ローダーで切返しをおこない第2堆肥舎で貯蔵し完熟させる。その後、販売・自家消費している。主な販売先は地域の野菜農家で、最近は仙台市泉区や青葉区の市民農園からの注文が多い。さらに、転作面積拡大に伴い堆肥の需要も増えてきている。

  [2] 液体(尿・汚水)の処理

  液体は固液分離機にて分離後、浄化槽に溜められ、ばっ気後、浄化された上澄み液は放流している。余剰汚泥は貯留槽に送られ全量草地へ還元している。

  ※検査結果

 (浄化前)
 BOD 63,000mg/l、CODMn 52,000mg/l、SS 67,000mg/l
 (分析:大和環境分析センター)

 (浄化後)
 BOD 6.9mg/l、SS 1mg/l未満、大腸菌群数0個/cc、全窒素440mg/l、全リン16mg/l
 クリプトスポリジュ―ム オースト0個/l(キアルギア シストは認められない)
 (分析:宮城県公害衛生検査センター) 


  


(4)その他 周辺美化への取組

 牧場周辺は宅地化、商用地開発等の計画があり、将来臭気や堆肥舎周辺の見た目が問題視されることも考えられるので、手作りの事務所の周りには季節の花を植えている。また、牧場の入り口周辺、共同の草地の道路沿いにはクリムソンクローバーを植えて景色を彩り、道路を通る人々の目を引くよう環境美化にも積極的に取り組んでいる。 


4.後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み


 実習生のための宿泊施設、シャワールームを手作りで建設し、実習に打ち込める環境を作り、「本気になって教えるので、本気になって学んで欲しい」という考えのもと、未来の有望なファーマーの指導を行っている。宮城県農業実践大学校畜産学部からの研修生や、実習を希望する東北大学の学生等、今まで牧場の卒業生は約20名となり時々卒業生が牧場を訪問してくる。
 また、地域の若手後継者たちに事務所を開放し、今まで改良してきた優秀な乳牛や、牛舎等の施設などの経験談、パソコンを利用したデータに基づく個体管理の指導を行っている。


5.地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容


 (1) 酪農家として

 15年ほど前から牧場を訪れる見学者のために、牛乳ができるまでの過程や牛の一生をまとめたパンフレットを作成している。説明しているうちに子どもやその親までもが、牛乳が生産される過程を全く知らないことを知り衝撃を受けた。スーパーで何でも手に入る時代である現在、農業に従事する者として「自分たちができる事から教えなければならない」という使命感が生まれ、ふれあい牧場を始める切っ掛けとなり、平成13年には念願の教育ファームに認定された。
 仕事の合間を縫って見学者用に水洗トイレを手作りで完成させ、子どもたちと動物のふれあいの場としてヤギやヒツジ、ポニー、ウサギ等も飼養している。訪れた子どもたちには牛の乳搾り体験のため牧柵を設置し、給餌、バター作り、さらには小動物に触れさせ、人間との生活にどのように関わり合ってきたかを教えている。

 また、見学する際は安全を考慮し父兄同伴としているが、それがかえって消費者との交流の場にもなっている。体験した子ども達から「ちちしぼりはおもしろかったです」「うまにのせてくれてありがとうございます」などのお礼の手紙や感想文がたくさん送られて来る。以前に体験学習に参加した子どもたちが、堆肥をもらいながら遊びに来るなど、平成14年には延べ300人(幼稚園・小学生6割、保護者・他4割)の見学者が訪れた。
 「食料は自然の中から産出され、その仲介が農業であり、農家というものを肌で実感してもらい、「食料は決して人工的には作れない」と言うことを認識してもらいたい。
酪農を続ける限りは一人でも多くの子ども達に食料生産の原点を知ってもらうよう努力している。


 (2) 妻の活躍

 地域酪農組合の婦人部長となって12年が経ち、様々な研修会や講習会に率先して参加する事でより良い経営を目指している。また、自らが中心となり部会での料理講習会も開催している。今後は農業に対する理解深めてもらうため消費者を交えた料理講習会の開催を計画している。また、ここ数年、根白石地域の酪農家が減少していく中で、他の酪農家たちを励まし、経営継続について話し合っている。


 (3) 今後の活動

 地域の農業と連携して農畜産物を販売する場所を作りたいと考えている。その内容は、乳製品等の加工品や地場の農産物など品数を豊富に取り揃え農畜産物に対する消費者の理解を深める場とし、出来れば乳製品を作る施設も検討している。
 70歳位までは現役として働き酪農を続けたいと考えており、現状規模で牛群の能力をより高め生産性の向上に努め、あわせて、高齢者でも対応できる施設の整備を行いたいと考えている。
 さらには、若い担い手の育成やふれあい牧場を通して子どもたちに農業を理解してもらうことで、社会貢献出来ればと考えている。



6.事例の特徴や活動を示す写真


 
 [1]庄司牧場 ・ 庄司夫妻(左 善信氏   右 妙子氏)
 
 [2]搾乳体験風景 ・ 体験学習のための小動物(ヤギ) ・ 体験学習参加者からのお礼文
 
[3]舎内でくつろぐ高能力牛群 [4]完熟堆肥保管のための堆肥舎
 
[5]自力施工の事務所 [6]牛群管理はパソコン利用