肉用牛
肥育
経営

平成16年度優秀畜産表彰

普及定着化推進事業

全国優良畜産経営管理技術発表会推薦調査書

高橋義則

 

1.経営管理技術や特色ある取り組み


  BSEの発生によって、牛の飼養農家は大変な影響を受け、現在は価格的には元に戻ったとはいえ、少なからずまだその影響が尾を引いている状況にある。このような状況にあってBSEの影響を最小限にくい止め、いち早く経営の安定化に努め実績をあげている。それを支えているのは、きめこまかな管理等長年に渡って蓄積してきた技術であり、低コスト化等無駄を省いた経営管理にある。
 高橋氏の肥育形態は30日齢程度のスモールを市場から導入、一部ヌレ子も地元の酪農家から導入している。4ヶ月齢から肥育を開始し、去勢で27ヶ月齢、体重820kg、雌で29ヶ月齢、体重730kgを目標にしている。 

(1)勘だけに頼らない飼料給与

  飼料給与はマニュアルに従い月齢に合わせ給与している。マニュアルは飼料メーカーのものに手を加えたもので、給与結果をフィードバックし、Vit.欠のときの対応や、肉質への影響など微妙な調整を行い自分なりのマニュアルをつくっている。牛の扱いは各人個々の考えがあるので、目に見えない管理をどうするか「その目線を養うことが大切」と高橋氏は強調しておられた。
 エサ給与は朝、夕の2回行い、一般的には粗飼料、配合飼料の順に給与するが、高橋氏は配合飼料から給与し、各牛の食いこみ状況から牛の健康状態の把握に役立てている。
 導入から3ケ月齢までは育成用飼料にチモシー乾草を十分に給与し、去勢牛を例にすると4〜10ケ月齢は交雑種用を給与、体重335kgまでもっていき、その後、27ヶ月齢まで和牛仕上を給与している。
 高橋氏は、給与量を間違えないよう1牛房毎に飼料給与表を掲示し群管理の徹底を図っている。

2)肥育成績の概要

  平均出荷月齢、体重は28ヶ月齢、770kg、1日あたり平均増体重0.86kg、枝肉歩留62%、枝肉キロ単価1,226円であった。
 枝肉格付けB-3以上は平成12年62.5%、平成13年63.4%、平成14年91.3%、平成15年が68.8%であった。特に平成14年はA・B・C-4以上が53%を占めた。その要因としてはマニュアルによる給与改善効果の他、14年は全般に仙台中央食肉市場の格付け割合が上位と高かったためではないかと推察している。ちなみに、仙台中央食肉市場におけるB‐3以上の格付率は平成12年が55.8%、平成13年が56.3%、平成14年が58.6%、平成15年が47.4%であった。

(3)肥育経営のポイントは素牛の選定と牛のストレス軽減

  スモール導入にあたっては必ず自分の目で確かめて購入している.その子牛が「肥育牛として将来性があるものを選びたい」との信念からだが、過去の肥育成績の分析結果から自分の飼養管理に最も適した牛を選ぶようにしているが「牛はみためでなく自らつくるもの」との意を強くしているという。
 高橋氏の牛舎を訪れて感心するのは、牛が大変おとなしい、人に慣れていることである。それだけ手を掛けていることであり、牛のストレスが少ないことである。
 全頭除角、削蹄されており、飼料給与時の健康チェック等とあいまって非常に低い事故率となっている。
 以前は、所得追及で追いこみ式牛舎一房(34〜40u)に7頭収容したこともあったが、所得が伸びなかったことの反省とストレス軽減から現在は5〜6頭収容と余裕をもたせている。牛房の汚れも少なくボロ出しの省力にもなっている。

(4)コストの削減への取り組み

  高橋氏は素牛の購入、肥育牛の市場出荷等その運搬は自ら行い経費節減に努め、飼料も腐敗による廃棄を無くすよう、飼料タンクは一度空にしてから使用するようにしている。また、無駄な投資は避け、牛舎は自ら間伐材や古電柱を利用して建築している。また、牛舎の建設場所は管理に目が届くように傾斜地でかつ狭い自宅周囲敷地を有効に使いながらパイプハウス牛舎等自ら建築し規模拡大を図ってきた。

(5)簿記、記帳への取り組み

パソコン導入は10年以上も前になり、ソリマチ農業簿記を使用している。肥育牛管理は3冊目になったノートに素牛導入から出荷までのデータを事細かに記帳し素牛導入や飼養管理に役立たせており、平成14年からはパソコン利用にも取り組んでいる。

(6)家畜排せつ物処理・利用への取り組み

  家畜糞尿と敷き料の混合物が堆肥舎に運ばれ切り返しにより全量処理されている。ハンドリングが良く40%は施設園芸農家に供給され、残りはイナワラ交換や自家水田に全量利用されている。

(7)販売促進、消費者との交流に関する取り組み

 生産者の顔が見える「食の絆」を大切にした安心・安全な産地直送の牛肉を消費者に提供することを目的に「みやぎ産直ビーフ研究会」を平成15年に設立した。


2.経営の概要と実績

(1)労働力の構成

 
区分 続柄 年齢 農業従事日数 年間
総労働時間
労賃単価 備  考
(作業分担等)
うち畜産部門
家族 本人 49 360日 360日 2154 1000円/時 肥育牛飼養管理
41 250 250 730 1000 肥育牛飼養管理、家事
79 250 80 500 1000 水稲、肥育牛管理
78 50       野菜等
             
小計   910 690 3384    
常雇              
臨時雇 のべ人日
                人
     
労働力
合計
4人 910日 600日 3384
  時間
   


(2)収入等の状況

 
平成15年1月〜平成15年12月
区 分 種 類
品目名
作付面積
飼養頭数
販売量 収 入
構成比









交雑種肥育牛 167.5頭 80頭 89.6%
堆肥   440m3 0.8%
     
     

水稲 450a   6.7%
雑収入     2.9%
農 外
収 入
     
     
合 計       100%
  
(3)土地所有と利用状況

 
区 分 実面積 備 考
うち借地 うち畜産利用地面積





450a 316a a
36a a a
樹園地 a a a
486a 316a a



牧草地 a a a
野草地 a a a
  a a a
a a a
畜舎・運動場 a a a


山林 40a a a
原野 a a a
40a a a
共同利用地 a a a 利用戸数:  
a

(4)家畜の飼養状況

 
単位:頭(羽)
品種・区分 交雑種
若齢肥育
       
期 首 159        
期 末 176        
平 均 167.5        
年間出荷
頭(羽)数
80        

(5)経営・活動の推移

 
年次 作目構成 頭(羽)数 経営および活動の推移
昭和58












平成2







平成7

平成9







平成11


平成15
水稲 肉用牛 100頭






















170頭
昭和47年柴田農林高校を卒業。その頃の飼養頭数は20頭程度でスモールから6〜8ヶ月齢までの肥育素牛生産経営で水稲とタバコ生産が主であった。
卒業後、民間会社に勤務、植林業務に従事。
昭和58年就農、農業後継者育成資金を利用して牛舎の増棟と乳用種肥育素牛を導入、肥育経営を開始


指定湖沼・釜房湖の水質保全のため、広域畜産環境整備事業を活用し、佐山堆肥舎利用組合(6名)を設立。


素牛を6ヶ月齢からスモールに変更


乳用雄肥育から交雑種肥育に切り換え
向原地区県営ほ場整備事業に地域で取り組み、同基盤整備組合の理事のほか、換地委員長及び用排水調整委員長となり農地集積推進に尽力


佐山堆肥舎利用組合組合長に就く。

みやぎ産直ビーフ研究会を設立、会長に就く



(6)経営実績

  
期 間 15年 1月 〜 15年 12月 経営実績




労働力員数(畜産) 家 族 1.5
雇 用  
肥育牛平均飼養頭数 肉用種  
交雑種 167.5
乳用種  
年間肥育牛販売頭数 肉用種  
交雑種 80
乳用種  








肥育開始時 日齢 30
体重 65 kg
肥育牛
1頭当たり
出荷時月齢 28 ヵ月
出荷時生体重 770 kg
平均肥育日数 824
販売肥育牛1頭1日当たり増体重(DG) 0.856 kg
対常時頭数事故率 0.5
枝肉1kg当たり販売価格 1,226
肉質等級格付率 ※ 68.8
もと牛生体1kg当たり導入価格 2,406
肥育牛1頭当たり投下労働時間 (時間) 20.2 時間


3.家畜排せつ物処理・利用方法と環境保全対策

(1)家畜排せつ物の処理方法

 糞尿混合処理

 牛舎は踏み込み式で上部から送風しているため乾燥状態がよく年に2〜3回ボロ出しを行いダンプで堆肥舎(畜舎から2kmほど)に運搬し、ローダーで切り返しを行っている。切り返しは10回程度行い仕上がり1年で堆肥として利用・販売している。敷き料はモミガラが主で、屑イナワラ、プレカット屑、バークが併用される場合がある。

(2)家畜排せつ物の利活用

  
内  容 割合(%) 品質等(堆肥化に要する期間等)
販  売 40 堆肥化に1年かけているため、水分60%以下で、
副資材も良く腐熟しハンドリングが良い良質堆肥に仕上がっている。
交  換 15  
無償譲渡    
自家利用 45  
そ の 他    
  
(3)処理・利用のフロー


(4)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み

 住居と畜舎が近接していることもあって、畜舎周辺は低樹木や草花が植えられ整理されている。
高橋氏は「牛で飯を食わされている立場で、牛で他人に迷惑をかけられない」と牛舎からの臭いや汚水等の流出には気を配っており畜舎内外の清掃に努めている。また、高橋氏は農業の原点は米作りと考えており、耕種部門は切り離せない存在と考えている。近隣でも農地の荒廃が目立っており、環境美化の観点からも野菜作りや食用作物以外の花栽培にも取り組むことを検討している。 


4.後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み


 子どもは3人とも娘であり、職業選択は子どもの意思に任せたいとしているが、次女に適性があるように感じるという。いずれにしても自分の姿を見て牛飼いができる。そのような経営を目指したいとしている。
 高橋氏の住む川内地区は比較的規模の大きな肥育農家が点在しており、自分の経営が良くなれば良いという考えは持たず、自分の培った技術について仲間や後継者にアドバイスするなど人材育成にも努めている。


5.地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容


 1)複式簿記の重要性を早くから理解しパソコン利用を学ぶために農業改良普及所が組織したAP研究会(平成3年設立)に参加し、現在川崎町認定農業者連絡協議会活動の一つとしてパソコン利用簿記普及に係る研修会開催等に尽力している。

 2)自分の出荷成績の向上につながった飼養管理技術について仲間に助言するなど地域全体の技術のレベルアップに努め、F1肥育のリーダー的存在である。

 3)当地区は県営ほ場整備事業が進行中であり、関連役職を通じ農地集積に尽力している。また、地元小学校のPTA会長として学校田での古代米の栽培など農業学習に協力している。

 4)生産者の顔が見える「食の絆」を大切にした美味しくて安心・安全な産地直送の牛肉を消費者に提供することを目的に平成15年4月に東日本産直ビーフ研究会の支部として「みやぎ産直ビーフ研究会」を設立した。役員6名で会長に就く。


6.今後の活動


 1)耕畜連係の組織作り
 畜産振興を図るうえで、排せつ物処理は避けて通れない問題であり耕種農家との連係は欠かせない。地域の酪農家や肥育農家農そして耕種農家からも良質堆肥供給を求め循環型農業を構築するための組織作りが検討されている。是非、その組織を立ち上げたい。また、自己経営の中でも作業受託等により耕種部門の充実を図っていきたい。
遊休農地解消にむけイネホールクロップサイレージへの取り組み、牛の健康増進とあわせ環境美化が図られるようにいハーブ等の省力化が可能な作物導入を検討したい。

 2)畜産経営の効率化を求めて
 将来の方向として、近隣の肉牛経営仲間と共同で経営を行うことにより省力化や経費節減等の経営の効率化や後継者問題等の解決のため、法人化も選択肢の一つと考えている。
さしあたって、水稲作業受託部門の法人化を目指したい。


7.事例の特徴や活動を示す写真


[1]「牛の世話は二人で」 高橋義則・栄子夫妻 [2]すべて手作りの低コスト牛舎 2 (間伐林利用)
 
[3]毎日のエサ給与はきちんと量を把握 (1) [4]毎日のエサ給与はきちんと量を把握 (2)
 
 
[5]完熟した堆肥の供給先ではりっぱな玉ねぎができました。 [6]畜舎の周りの低樹木や草花